2021/12/20

連載『スポーツ情報って面白い!』⑥/五輪からスポーツジャーナリズムの視点を磨く

 スポーツをメディアが伝えるものは選手・チームの力や戦術、試合の見どころや結果だけではない。ジャーナリズムの視点でそこに問題があれば指摘し、その本質を見極め、必要とあれば追及し正していかなければならない。たとえそのことによって一時的に国益を損なう可能性があっても…だ。

 1999年1月、私は仙台放送LA支局からユタ州のソルトレークシティーに向かった。2002年に開催が決まった冬季オリンピックの招致活動に不正疑惑が持ち上がったためだ。ソルトレークシティーの招致委員会は過去4度立候補しいずれも落選、1998年の開催地誘致では決選投票で長野に敗れていた。招致委員会のトム・ウェルチ元会長は単独取材に応じて「私は何も悪いことはしていない。生贄にされた」と語った。州議会議員や招致反対運動のメンバー、アフリカのIOC委員の子息が不正留学していたブリガム・ヤング大学、ボブスレー会場なども取材した。
 この取材の中で、ソルトレークシティーの招致委員会は、前回決選投票で敗れた長野の招致活動を徹底的に研究し、それを参考にしてIOC委員に買収や接待攻勢をかけたことが判明した。この問題は終了したばかりの長野に飛び火した。長野では慌てて招致活動の資料などが焼却処分されるなど混乱が続いた。

 これらをきっかけにIOCは汚職撲滅キャンペーンに乗り出し大きな効果を上げたはずだった。しかしコロナ禍で1年延期された東京五輪・パラリンピックの招致でも不正疑惑が持ち上がり、JOCの竹田会長が辞任に追い込まれたことは記憶に新しい。

 コロナの感染拡大が続く中、開催か中止かで揺れた東京五輪・パラリンピックだったが、ほとんどの会場を無観客にして強行、日本は金メダル27個、銀メダル14個、銅メダル17個、合計58個の史上最多のメダルを獲得して幕を閉じた。
 スポーツ選手がパフォーマンスを発揮できる場が確保できたことそれ自体は素晴らしいことだ。しかし、スポーツジャーナリズムを学ぶ学生は、「開催できて良かった、結果も良かった」で終わってはいけない。招致活動の不正問題、コロナ禍の開催を巡って明らかになったIOCの異常ともいえる優位的立場、五輪のレガシーなどこれからしっかり検証して学びに生かしていく必要がある。

 ところで、今回の五輪・パラリンピックではドーピング検査についてほとんど話題とならなかったと記憶しているが、コロナ禍で実施できたのだろうか?
 ドーピング問題について知るために私は第90回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した「イカロス」の視聴をお勧めする。Netflixのオリジナルドキュメンタリーだ。
 〈スポーツ情報マスメディア学科 教授 佐々木 鉄男〉

学科概要はこちら

バックナンバーはこちら

<< 戻る

関連記事