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「海をなめるなよ!」そして、汗と涙と多くの感動をありがとう/仙台大学海浜実習

[2015/07/28]
 平成27年度仙台大学海浜実習が、今年も山形県鶴岡市由良海水浴場で今月18日土曜日から20日月曜(海の日)まで2泊3日の日程で実施された。「海をなめるなよ!」で始まった「水泳実習」(当時の名称)も今年で35年目を迎える。今年は例年になく前日から台風の影響で悪天候に見舞われ、実習メニューが心配されていたが、やはり日本海を代表する海水浴場だけあって、我々の心配をよそに全ての課程を難なく消化する事が出来た。特に最終日の大遠泳では曇り空ではあったものの、水温もほどほど、波ひとつ立たない穏やかな海、絶好の遠泳日和となった。由良の海は最後まで仙台大学を裏切らなかった。最終的には全員が余裕を持って完泳する事が出来た。結果は同設定コースの中では最高記録である107分という実習最後にふさわしい有終の美を飾った。100人にも及ぶ編隊が水面の上で大きな群れと化し移動する様はまさに勇壮壮大である。よき指導を得て団結和協のもと、果てしなき未知の目標を達成しようとする若者の姿は何よりも美しいものである。「教師になって良かった・・・」と思うと同時に、本学学生(新入生として)誇らしくさえ思える瞬間である。

  今思い起こせば当時、地元宮城県をはじめ隣県の太平洋沿岸の海水浴場での実習は、7月中旬という事もあって東北の梅雨明け頃の天候は不安定で天気はもとより、気温や水温をはじめ、自然環境要因が中々実習条件に叶う事が少なく、水泳実習に関しては関係者が困難を強いられていた事を思い出す。野外スポーツ活動の成否は、ほぼ気象条件が鍵を握っていると言っても過言ではない。特に「海」という大自然を相手にする水泳となると、潮の流れや水温が重要な要因となる。宮城先生は実習の怖さを良く知っており、その事を誰よりも理解している。

 そんなある日、冬季の実習がきっかけで当時担当責任者となった宮城先生に太平洋と日本海の海の違いを話すことがあった。結局実際の現場を二度(真冬と初夏)に渡ってみて頂く事となった。冬の日本海、そして翌年の初夏の海があまりにも違う姿に、宮城先生の驚きの表情が今でも印象的だった。以来、仙台大学に入って来たほやほやの新入生を迎えるべき体育系大学の「心構え教育」のスタートという事ではじめられた「水泳実習」(当時の名称)は、実に今年で35年。その間、実習中の事故は勿論のこと、始めは泳げなかった学生も全て脱落者無く見事完泳した。学生をはじめ、皆が充実感に浸れる唯一の体験となった。実習を終えた大学では何か学内の空気が大きく変わっていた事を思い出す。こんな気持ちを味わったのは私だけだろうか?そんな感動的行事が地元鶴岡市の話題となり学内にも徐々に浸透して行った。
  年を重ね大学の規模も大きくなるに従って、実習生の数も増えていった。実習スタッフは実技教員ではおさまらず、教科や職の枠を超え殆どの教職員が参加(大学が留守状態になり心配した程、笑!)、大学上げての実習となって行った。多い時では300人を超える大遠泳となったことも記録に残っている。同じ厳しさでも競技クラブの活動とはチョット違う、いわば総合訓練にも似た一種独特な教育だったのだと思う。まさに仙台大学生の基本姿勢を植え付ける事が出来る唯一の「教育事業」に育って行った。 
  このように徐々に本学の一つのムーブメントになって伝統行事と化し、今で言う本学の「建学の精神」、しいてはFD(ファカルティディベロプメント)GP(グランドポリシー)等の土台となったと言ってもよいのではないか。

 実は実習前夜に地元観光協会によるサプライズとして「歓迎兼35年感謝の会」が催され、会では当時の懐かしい思い出の写真やエピソードが映し出され、仙台大学の「実習35年の歩み」に花を添えて頂きました事を加えておきたい。また実習中は、毎年のように地元をはじめ隣県(新潟・秋田・仙台、他)の同窓生が数名顔を出し、思い出と懐かしさを取り戻しに来てくれる場面も見逃せない。本当に懐かしいんでしょうねぇ。「先生方年を取りましたね?」、「気合掛かってないんじゃないですか?」等と彼らに「はっぱ」を掛けられる始末(笑!)。最近では2泊3日とスケジュールも少なくなり、総勢100名規模のコンパクトな実習となってしまったが、今回の実習でも当初の「志」は変わらず、きっと仙台大学の精神を学生達に伝える事が出来たと信じている。
  佐久間敏行先生(以下先生を省略)、熊坂繁太郎、佐渡一郎、小島淑子、北村 仁、佐藤信重、森 富、向井正剛、佐藤 佑、藤堂良明、日下裕弘、本多弘子、鈴木敏明、岡村輝一、春藤るみ、横川和幸、佐藤 久、佐藤幹男、中房敏朗、舟山正則さん、などなど・・・、(他在職中教員略)現在はお亡くなりになられたり、殆どの先生方が退職されている先生方だ。今、文字を打ちながら、それぞれのお顔を思い起こしている。この諸先輩・諸先生の協力なくして今までの実習は存在しなかったことは言うまでもなく、そこに参加して頂いた歴代からの補助学生の諸君の力の賜物だと感謝している。とにかく一人一人が燃えていた。その燃えた先生方の姿を、彼らはしっかりと今でも忘れていない。自分自身の誇りの宝として。だから、いつまでもそれを私たち教員は忘れない。本当にみなさんお疲れ様でした。今回の実習の閉講式では全員が大海原に向かって指をさし「海をなめるなよ!」のエールを行った。

 「海をなめるなよ!」で始まり「海をなめるなよ!」で無事終わる事が出来、35年目の海浜実習が幕を閉じた。大きな体で直立不動となった宮城先生、震えた嗄れ声とうるんだ目がとても印象的だった。35年間私たちを守ってくれた「由良の海」に心から感謝を申し上げたい。みなさん本当にありがとう。

<寄 稿:文・児玉善廣 教授、写真・小松恵一 教授>